arigato 全曲解説
このアルバム全体を流れるテーマは、
「つながり」、「愛」、「許し」、そして「感謝」です。
もしあなたが和解したい人や感謝したい人がいれば、
このアルバムを贈ってください。
ささやかながらも、その人やあなたが人や自然やあなた自身を受け入れられるきっかけになれればこのうえない喜びです。
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1. ウレシパモシリ
この歌をつくったキューバ・ジャマイカを旅しているとき不思議なビジョンを見ました。
巨大な光の塊が爆発し、砕け散った細かい光の粒が地球に降り注ぎ、ひとつひとつの命に育っていきます。この光の塊は「愛」だと直感しました。
わたしたちは、同じ愛から生まれたのです。
日本の先住民アイヌは、「すべてのものにカムイ(神)が宿っている」と考えていました。「アイヌ」というのは「人間」という意味と、もうひとつ「わたしたち」という意味があります。
オーストラリアの先住民アボリジニは「わたし」と「あなた」という言葉がありませんでした。鳥も動物も花も精霊も人間も「わたしたち」だったからです。
人類は5000年ほど前、農耕の誕生とともに、「所有」が生まれ、「わたし」と「あなた」をへだてる壁を高く積み上げてきました。
それらの利己的考えが、自然環境を搾取し、すべての命をのせた「宇宙船地球号」を危機に追いやっています。
今大きな時代の転換期をむかえ、もう一度わたしたちの祖先であるアイヌ民族の「ウレシパモシリ(育みあう大地)」という考えを謙虚に学び直す時代が来たのかもしれません。2. The Answer
人は大まかな「人生の計画」自分で立てて、この世に生まれてくるといわれてます。
さまざまな困難や障害もそれを越えられるだけ魂レベルが成長した者だけが、選べます。
だから重い病気や障害をもった人は、「かわいそうな人」ではなく、逆に「魂の勇者」だからということができます。
ただそれらの理論をふりかざすより、その人に寄り添い、その人の魂の声に耳を澄ますことのほうがさらに大切なことのように思えるのです。3. 愛することをやめないで
この曲をライブで演奏するときに、よく「あなたの遺言は?」とか、「あなたの墓石に彫ってほしい言葉は?」などと、観客に質問したりします。
伝えたいメッセージは山ほどありますが、おそらくぼくはこの言葉を選ぶでしょう。4. Traveling Man Monologo (旅人の独り言)
原曲は「Traveling Man」という曲のメロディーにのせて、アルバムでは初めてのポエトリーリーディング(詩の朗読)に挑戦しました。
スペイン語の部分は書き下ろしの詩です。ぼくはスペインのマドリッドに3年ほど住んでいたのですが、なにしろすべての言語はストリートで学んだので文法的にまちがっているところもあるかもしれません。5. 世界はたりてる
ぼくはすべてを旅から学びました。今は年に9ヶ月はライブで日本中を旅し、3ヶ月は外国を旅しつづけています。
ぼくがこうして作品をつづけているのも、ひとりでも多くの人を旅立たせたいからです。
長く旅をつづけるコツは、自分の狭い価値観で他者を分析や批判をしないってこと、「ありのままの世界を見つめる目」になることだと思います。
旅をしていると、とてつもなく美しい風景や、貧しくてもすばらしい子供たちの笑顔に出会います。
そんなとき、「世界はたりている」と心の底から感動する瞬間があるんです。
「もしも~があったら」や「~がたりない」と愚痴をこぼしたりするときは、世界が足りないのではなく、自分自身に満足できないことを他人になすりつけているときです。
さあ、ありったけの勇気をふりしぼって最初の一歩を踏み出しましょう。6. 精霊の島
沖縄の島々には毎年1,2回ほどライブツアーで通っています。合計すると1年のうち1ヶ月ほどは沖縄に住んでいるようなものです。
なぜこんなにも沖縄に惹かれるのかと考えると、人の大らかさ、あたたかい気候、美しい海、食べ物の美味しさなど、沖縄の魅力はたくさんあります。なかでも日本本土では絶滅種となった精霊さんが、ちゃんと生き残っているからではないのかと真剣に思っています。
精霊を信じることは、おくれた迷信ではなく、700万年ものあいだ自然と共存をつづけてきた人類の知恵です。
自分と異なる者を思いやる想像力を失ったとき、人は他者をイジメ、殺し、戦争を起こし、自然を破壊するからです。
(ウチナー=沖縄。ちゅら=美しい)
リュウスケのすばらしいアレンジが精霊の森にあなたをいざないます。7. HERO
ヒーローをテーマにした歌は古今東西無数にあります。それはぜんぶ社会的な賞賛を受ける英雄の歌です。
AKIRA版の「HERO」は無数にあるヒーローソングに真っ向から戦いを挑んだ世界で唯一の歌です。
ぼくたちは学校や会社で「誰かのために自分を殺す」ことを叩き込まれてきました。
それは人生の主役を誰かに明け渡して、「その他大勢」に自分をおとしめることです。
それがまちがった英雄観を生み、少年犯罪の温床にもなっています。なにかを成し遂げなくても、有名人や地位や名誉のある人にならなくても、 もともとすべての命が自分の人生のヒーローであり、ひとりひとりに主役を奪還してほしいのです。
8. 米をとぐ
ひげに氷柱ができそうな真冬のナイアガラ瀑布のドッドッドとというリズムを聴きながら急に浮かんできたヘンテコソングであり、そのときはこの歌がライブで一番人気になるとは夢にも思っていませんでした。(笑)
作ったときは「バカな詩だなあ」と思っていましたが、あとから読み返すと、むちゃくちゃディープ!9. びっこのおかあちゃん
ぼくの母親は20代のときにわき毛を剃っていたらばい菌がはいり、高熱と全身の痺れで入院し、以来片足を引きずって歩くようになりました。
酒を飲むと暴力をふるう父に耐えかね、ぼくが5歳のとき1歳の妹を連れて家をでました。
ぼくは「びっこのおかあちゃん」がコンプレックスでした。
しかし今、たくさんの障害者施設をライブでめぐるようになって、「なぜ自分が弱い人たちに惹かれるのだろう」という疑問が解けました。それは身体障害者の母を持ったからです。
もちろん母自身も無意識でしたでしょうが、ぼくの作品を生むため、そしてその作品にふれた人がなんらかの救いを感じてくれるために、母は自分が障害者になるという運命を魂レベルで選択してくれたのではないかとさえ思えるのです。母の日は母の日だけじゃなく、生きてる限りつづく。
死んでからもつづく。
だからお母さんを思い出したら、いつでも電話して。
会いにいって。
話しかけて。
きみの命が今あるのは、
お母さんが命がけで、
きみを生んでくれたお陰なんだから。10. 和解の歌
競争社会で育ったぼくたちは、学校や会社で「他人をけ落としてもいい成績をとれ」という命令を当たり前のように受け入れてきました。
それができないと、「人生の敗北者」の烙印を押されます。
このとんでもない幻想を信じこまされてどれだけ多くの人が自殺し、生きづらさを抱えてきたことでしょう。
時代が大きく転換し、「競争」から「共存」へシフトする今、時代の大きなテーマは「和解」になると思います。
実は敵対する原因は自分や相手ではなく、競争せざるを得ない「場」や肩書きという「役柄」にあるのです。
それらを捨てて、おたがいがひとりの人間として向き合ったとき、はじめて「和解」が生まれるのです。
別れた恋人や妻や夫、関係のこじれた子供や両親、自分を批判したり憎むやつ、
そしてなによりも和解しなくてはならないのは……自分自身なのです。
自分で自分を卑下したり、おとしめたり、攻撃する癖をやめましょう。うまくいっているときは他人がほめてくれますが、うまくいかないときは誰もほめてくれません。
だから最悪なときほど、自分で自分を抱きしめてやってください。
どんなときの自分も、いつもいつもおまえは100点満点だと受け入れてやってください。
11. ありがとう
「サンキュー」(英語)、「グラッシャス」(スペイン語)、「グラッツェ」(イタリア語)、「オビリガード」(ポルトガル語)、「ダンニャバッド」(ヒンドゥー語)、「アサンテ」(スワヒリ語)、「テシェクルエデルム」(トルコ語)、「イアイライケレ」(アイヌ語)などなど、感謝の言葉は世界中で一番美しい言葉です。
それは言語自体よりも感謝できる人の心が美しいからです。
さて日本語の「ありがとう」は、「有り難い」、「在り難い」、「ありえねー!」くらいの奇跡を意味します。もう感謝があふれて、あふれてどうしようもないとき、この気持ちを表現するのに「ありがとう」だけでは伝えられないもどかしさをおぼえます。
しかし長い日本語の歴史で
「ありがとう」以上の言葉が
生み出されなかったということは、
この「五文字の一言」は
史上最強の言葉だったのでしょう。
あなたの感謝したい人に
なけなしの勇気をふりしぼって伝えましょう。
「あなたのすべてにありがとう」と。arigato
2010年4月リリース。11曲。2500円。